【寄稿者:2級FP・AFP 山﨑裕佳子さん】
そろそろマイホームが欲しいけど、教育費は足りるかな。老後資金も心配・・・。
と、お金の悩みはつきません。
住宅資金、教育資金、老後資金は3大資金ともいわれるように、数百万~数千万円にもなる高額な出費となるため、計画的かつ効率的に資金の準備をしたいところです。
本記事では、これからマイホームの取得を考えている方に向けて、今春改正された住宅ローン減税の概要をお伝えするとともに、将来の資金計画を立てる際に役に立つJLsimシミュレータを活用して、「住宅ローン」と「資産運用」のバランスを考えたいと思います。
2022年度 住宅ローン減税の改正ポイント
今春、住宅ローン控除制度の改正がありました。今回の住宅ローン減税の改正ポイントを簡単にまとめます。
控除率の縮小と控除期間の延長
・控除率 1% → 0.7%へ縮小
・控除期間の延長 10年(*)→ 原則13年
・所得要件の引き下げ 3,000万円 → 2,000万円
・2025年末までの入居に適用
(*)消費税10%引き上げに伴なう特例措置適用の場合は13年
このほかにも変更点はありますが、控除率、控除期間の変更は、ローン返済のシミュレーションに直接影響がありますのでおさえておきましょう。
なぜ、控除率は縮小されたの? 0.7%の背景
住宅ローン減税の控除率が縮小された理由のひとつは、住宅ローンの借入金利の問題です。
住宅ローンの金利は、長い間、低金利状態で推移しています。
変動金利では1%未満、固定金利でも優遇金利の適用により、実効金利としては1%を下回る金利で住宅ローンを借入れている方が多いことがわかっています。
たとえば、住宅ローンを0.8%の金利で借入れている方に、1%の減税率が適用されるとすると、頭金を入れるより、あえてローンを借入れたほうが「お得」な状態となってしまいます。
今回の控除率の縮小は、いわゆる「逆ザヤ」「借入金利 < 控除金利」の解消という目的でもありました。
住宅ローン控除限度額について
控除率が0.7%になったことをお伝えしましたが、控除額はあくまで、控除可能な最大金額という意味です。たとえば、4,000万円のローン残高に対する計算上の控除額は28万円ですが、ローン契約者の源泉徴収税額(所得税額)が28万円未満であったら、控除できる金額は、源泉徴収税額が上限となります。シミュレーションの際には、ご自身の源泉徴収票を確認するなどしてください。
使い方いろいろ!JLsimシミュレータ
住宅ローン減税が適用されている間は、繰り上げ返済しないほうがいいの?
あえて頭金を少なくして、余った資金を投資運用したらどうなる?
ローン返済しながら、毎月少しずつの投資で老後資金を準備できる?
など、「住宅ローン」と「資産運用」を同時にシミュレーションできるのがJLsimです。
次の3つの例で検証してみました。
なお、本記事内のシミュレーションにおける返済方法は、「元利均等方式」「ボーナス払いなし」で計算しています。
1.住宅ローン借入額はいくらにする?
まずは基本的な使い方から。
4,000万円の物件の購入を決め、手持ち資金が1,000万円あるとします。この1,000万円の配分を、次のパターンで検証してみます。
パターン(1)
1,000万円全額を住宅購入の頭金に入れ、住宅ローンの借入額は3,000万円とする。
借り入れ条件は下記のとおり。
住宅ローン借入額 | 3,000万円 |
借入利率 | 0.8% (返済期間中変動なし) |
住宅ローン控除率 | 0.7% |
控除期間 | 13年 |
控除限度額 | 21万円 (3,000万円x0.7%) |
ローン返済期間 | 30年(360回) |
↓ 結果
返済総額 | 33,753,636円 |
利息合計 | 3,753,636円(A) |
ローン控除額 | 1,864,424円(B) |
正味利息 | 1,889,212円 (A)ー(B) |
パターン(2)
1,000万円のうち、500万円を頭金に入れ、住宅ローンの借入額を3,500万円とする。残資金500万円は、投資信託を購入し、下記の条件で運用する。
住宅ローン借入額 | 3,500万円 |
借入利率 | 0.8% (期間中変動なし) |
住宅ローン控除率 | 0.7% |
控除期間 | 13年 |
控除限度額 | 24万円 (3,500万円x0.7%) |
ローン返済期間 | 30年(360回) |
投資運用資金 | 500万円 |
予定運用利率 | 4% |
運用期間 | 30年 |
↓ 結果
返済総額 | 39,379,255円 |
利息合計 | 4,379,255円(A) |
ローン控除額 | 2,141,893円(B) |
正味利息 | 2,237,362円 (A)ー(B) |
500万円の運用結果 | 16,567,142円(C) |
運用利益 | 11,567,142円 (C-500万円) |
借入金利が同じならば、ローン控除額を考慮しても、この条件下では、ローン借入額の少ない(1)のパターンのほうが返済総額は少なくなります。
一方で、(2)のパターンのように、手持ち資金の一部を投資運用へ回し、ローン返済しながら、同時に「お金を育てる」という選択もあり、想定利率を入力することで運用による利益が計算できます。
投資運用により増えた資金は、老後資金として活用できますし、運用益を教育費や住宅ローンの繰り上げ返済資金に充当することもできます。
シミュレータを使うことで、債務の返済を優先するか、運用で増やすのかのバランスを検証することができます。
ただし、投資は預貯金と違いリスクを伴います。元金を下回らない保証はありませんし、逆に想定より増える可能性もあることを念頭においておきましょう。
シミュレータでは、予定利率を任意の数字に設定できますので、ご自身の取れるリスクと相談していろいろな設定で試してください。
また、シミュレータの予定運用利率は、平均値で計算しています。運用をやめるタイミングによって、運用結果が、予定利率を下回る可能性もあることに注意してください。
なお、通常、株や投資信託の売却益、配当金には20%の税金がかかりますので留意してください。NISA口座(少額投資非課税制度)での運用であれば非課税です。
2.繰上げ返済のタイミングはいつがベスト?
繰上げ返済の資金は、ローンの元金に充当されます。つまり、元利均等方式では、利息割合が高いローン返済初期の繰上げ返済ほど、利息が圧縮されるため、返済総額の減額につながります。
しかし、早期にローン残高を減らし過ぎてしまうと、住宅ローン控除を最大限活用できなくなることがあるため、繰上げ返済をいつすればいいのか悩むところです。
次のパターンを想定し、シミュレータを活用し比較してみました。
繰上げ返済資金:1,000万円
(パターンA)
ローン開始から7年目に500万円、14年目に500万円、2回にわけて、計1,000万円を繰上げ返済。
(パターンB)
ローン開始から14年目に1,000万円を繰上げ返済。
(前提条件)
住宅ローン借入額 | 3,000万円 |
借入利率 | 当初5年0.5% 6年目以降1% |
住宅ローン控除率 | 0.7% |
控除期間 | 13年 |
控除限度額 | 21万円 (3,000万円x0.7%) |
ローン返済期間 | 30年(360回) |
↓ 結果
パターンA | パターンB | |
繰上げ返済額 | 500万円ずつ2回(計1,000万円) | 1,000万円 |
返済総額 | 32,437,180円 | 32,822,377円 |
利息合計 | 2,437,180円 | 2,822,377円 |
返済回数 | 239回(19年11ケ月) | 243回(20年3ケ月) |
ローン控除額 | 1,644,757円 | 1,863,866円 |
正味利息 | 792,423円 | 958,511円 |
この前提条件ですと、ローン控除額を最大限活用するよりも、早期の繰上げ返済により利息を圧縮したほうが、正味利息が少なくなるため、お得であることがわかります。
このような使い方も可能です。ご自身の想定する数字に変更して検証すると、繰上げ返済のベストなタイミングがわかります。
3.ローン返済しながら、投資運用のシミュレーション
ローンの返済をしながら、月々3万円を予定運用利率4%で投資運用する。
月々3万円を年利4%で投資運用
運用期間 | 30年 |
投資元本合計 | 10,800,000円 |
20年目の運用資金 | 11,003,058円 |
30年後運用結果 | 20,821,139円 |
前提条件は(パターン1)と同じ。
返済シミュレーション
返済総額 | 33,753,636円 |
利息合計 | 3,753,636円(A) |
ローン控除額 | 1,864,424円(B) |
正味利息 | 1,889,212円 (A)ー(B) |
ローン返済回数 | 360回(30年) |
20年目のローン残高 | 10,809,551円 |
シミュレーションの結果、20年目に運用資金がローン残高を超えるため、運用資金を繰上げ返済に充当すれば、ローンの返済期間を30年→20年に短縮することができます。
運用資金を繰上げ返済資金としない場合は、30年後の約2,000万円は、老後資金として使うこともできそうです。
このように、任意の数字でシミュレーションをしてみると、ローン返済と投資のバランスを検証できます。
まとめ
JLsimシミュレータは、住宅ローンと、投資運用のシミュレーションを同時にしてくれるため、両者のバランスを検証するためには、使い勝手の良いツールです。
今回は、主に、新規に住宅を取得する方を対象にして、活用方法をお伝えしましたが、既に住宅ローンを返済中の方でも、ローン残高・控除率・残りの控除期間など必要事項を入力することで、同様のシミュレーションが可能です。
今回ご紹介した以外にも、さまざまな使い方ができます。住宅ローンと投資のバランス、何が自分にとってベストなのか考えるきっかけに、JLsimを活用してみてはいかがでしょう。
【寄稿者:山﨑裕佳子 プロフィール】
通関士として通関業務に7年携わった後、メーカーにて海外営業事務、銀行にてテラーほか様々な仕事を経験。ワークライフバランスを大切にしている。
2019年、FP2級技能士、AFP資格を取得。その後、独立系FP会社に1年半所属し、執筆、校正の経験を積み、相談業務を勉強する。2021年春よりフリーランスで活動を始め、2022年5月、FP事務所MIRAI設立。
現在は、相続、不動産、保険、ライフプラン、税金分野などで多数の執筆をしている。
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