住宅ローン控除と繰り上げ返済の関係:最適なタイミングを見極める

住宅ローン返済考察

住宅ローンの繰り上げ返済を検討する際、見落としがちなのが「住宅ローン控除(住宅ローン減税)」との関係です。減税メリットを最大限に活用しながら、最適なタイミングで繰り上げ返済を行うためには、両者の仕組みを正確に理解することが重要です。本記事では、住宅ローン控除と繰り上げ返済の関係について、税制面から詳しく解説します。

住宅ローン控除の基本的な仕組み

まず、住宅ローン控除の基本的な仕組みを理解しましょう。

住宅ローン控除とは

住宅ローン控除(正式名称:住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、一定期間、所得税や住民税から一定額を控除(差し引き)できる制度です。

控除額の計算方法

基本的な控除額の計算式:

  • 年末のローン残高 × 控除率(0.7%)= 年間控除額
  • ただし、年間控除額には上限があります。
  • 以前は控除率1.0%でしたが、2025年現在では新規にローンを借りた場合の控除率は0.7%です。

控除期間:

  • 一般住宅の場合:10年間(特例で13年間のケースもあります)
  • 認定長期優良住宅・低炭素住宅の場合:13年間

控除限度額: 制度改正により年によって変動しますが、一般的な例として:

  • 省エネ基準適合住宅:年間最大21万円(ローン残高3,000万円の場合)
  • 認定長期優良住宅:年間最大31.5万円(ローン残高4,500万円の場合)
  • 入居年度や住宅性能など条件によってかなり複雑になっておりますのでご注意ください。

No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁

住宅ローン控除について知りたい|ライフイベントから見る生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター

住宅ローン控除の適用条件

住宅ローン控除を受けるには、以下の主な条件を満たす必要があります。(2025年現在)

  1. 居住要件:取得した住宅に実際に居住していること
  2. 所得要件:合計所得金額が2,000万円以下であること
  3. ローン要件:返済期間が10年以上の住宅ローンであること
  4. 面積要件:床面積が50㎡以上であること(一部例外あり)

適用される税金

住宅ローン控除は、まず所得税から控除され、控除しきれない分は住民税からも控除されます(住民税からの控除には限度額あり)。

繰り上げ返済が住宅ローン控除に与える影響

繰り上げ返済を行うと、住宅ローン控除にどのような影響があるのでしょうか。

控除額への直接的影響

繰り上げ返済を行うと、「年末のローン残高」が減少するため、翌年の控除額も減少します。

具体例:

  • 長期優良住宅で年末のローン残高が4,000万円の場合:
    • 控除額 = 4,000万円 × 0.7% = 28万円
  • 500万円の繰り上げ返済を行い、年末のローン残高が3,500万円になった場合:
    • 控除額 = 3,500万円 × 0.7% = 24.5万円
    • 控除額の減少 = 3.5万円

このように、繰り上げ返済によって控除額が減少するため、税制面だけで考えると、住宅ローン控除を最大限活用するためには、控除期間中の繰り上げ返済は控えた方が有利となります。

返済方法による影響の違い

繰り上げ返済には「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があり、それぞれ住宅ローン控除への影響が異なります。

  1. 返済期間短縮型
    • 月々の返済額はそのままで、返済期間を短縮する方法
    • ローン残高の減少ペースは変わらないため、控除額への影響はない
    • ただし、ローン完済時期が早まるため、控除期間途中で完済すると、残りの控除が受けられなくなる
  2. 返済額軽減型
    • 返済期間はそのままで、月々の返済額を減らす方法
    • 元金の減少ペースが遅くなるため、控除期間中の控除総額は若干増加する可能性がある

繰り上げ返済タイミングの工夫

税制面での影響を最小限にするため、繰り上げ返済のタイミングを工夫することも可能です。

年始の繰り上げ返済:

  • 1月に繰り上げ返済を行うと、その年の12月末までにローン残高が自然に減少
  • 控除額への影響を12ヶ月先送りにできる

控除期間終了後の繰り上げ返済:

  • 控除期間(10年または13年)が終了した後に繰り上げ返済を行うと、減税メリットを損なわない
  • 税制面では最も効率的な方法

所得税率と住宅ローン控除の関係

住宅ローン控除の効果は、適用される所得税率によっても変わってきます。

所得税率の仕組み

日本の所得税率は、所得金額に応じて以下のように変動します(2025年現在)。

課税される所得金額税率控除額
195万円まで5%0円
195万円超~330万円以下10%9.75万円
330万円超~695万円以下20%42.75万円
695万円超~900万円以下23%63.6万円
900万円超~1,800万円以下33%153.6万円
1,800万円超~4,000万円以下40%279.6万円
4,000万円超45%479.6万円

No.2260 所得税の税率|国税庁

所得税率と控除効果の関係

所得税率が高いほど、住宅ローン控除の恩恵も大きくなる傾向があります。特にサラリーマンの方などは、すでに源泉徴収された分が還付される金額の「原資」となります。逆に言えば、そもそも源泉徴収されている毎月の所得税金額があまり多くない場合は、住宅ローン控除がいくら多額であっても控除しきれないということになります。(ただし後述する通り、所得税で控除しきれない場合は住民税からも控除されます)

一般に所得税率が高いほど、控除額の減少がもたらす影響が大きくなるため、高所得者ほど控除期間中の繰り上げ返済については慎重に検討すべきです。

住民税からの控除

所得税から控除しきれない分は住民税からも控除されますが、住民税からの控除には上限があります。

  • 一般的な住民税控除限度額:所得税の課税総所得金額等 × 5%(最高97,500円)

所得税率が低く、所得税での控除額が少ない場合でも、住民税からの控除で補完される仕組みになっています。

【2024年版】住宅ローン控除(減税)とは?仕組みと改正ポイント・計算方法|りそなグループ

住宅ローン控除を最大化しながらの繰り上げ返済戦略

住宅ローン控除のメリットを最大化しながら、適切に繰り上げ返済を進める戦略を考えてみましょう。

戦略1:控除期間終了後の集中的な繰り上げ返済

最も単純な戦略は、控除期間(10年または13年)が終了するまでは繰り上げ返済を控え、控除期間終了後に集中的に繰り上げ返済を行うことです。

メリット:

  • 控除額を最大限に活用できる
  • 控除期間中に貯蓄を増やし、まとまった繰り上げ返済が可能になる

デメリット:

  • 控除期間中は金利負担が大きいまま
  • 返済総額でみると、控除メリット以上に金利負担が大きくなる可能性も

戦略2:毎年控除上限額を意識した繰り上げ返済

年間の控除上限額を意識し、上限額に影響しない範囲で繰り上げ返済を行う戦略もあります。

具体例(省エネ基準適合住宅の場合):

  • 控除上限額は年間21万円
  • 控除率は0.7%
  • 上限額に達するローン残高 =3,000万円

したがって、年末のローン残高が3,000万円を超える場合は、超える部分について繰り上げ返済を行っても控除額に影響はありません。

メリット:

  • 控除メリットを損なわずに一部繰り上げ返済が可能
  • 金利負担の軽減と控除メリットの両立

デメリット:

  • 借入額が控除上限に達していない場合は適用できない
  • 計算が複雑で、適切な繰り上げ返済額の判断が難しい

戦略3:節税効果と金利軽減効果のバランスを考慮

住宅ローン控除による節税効果と、繰り上げ返済による金利軽減効果を比較して、総合的に判断する戦略です。つまり、利息を節約するよりもローン控除で減税されるほうが得なのか、それとも控除されるよりも利息を節約するほうが得なのか、という判断です。

これは各人の収入(≒所得税額)やローン金額、借りた金利、入居した年(≒控除率)などによって変わってきます。各要素が影響しあう非常に複雑な計算となりますが、下記の便利な住宅ローン・シミュレーションのツールを使うと非常に簡単で便利です。

住宅ローンの返済シミュレーション:繰上返済や投資・控除減税まで連動した計算ができるサイト | JLsim 住宅ローン&資産運用シミュレータ

住宅ローン控除制度の変遷と今後の展望

住宅ローン控除制度は、経済状況や政策によって変更されることがあります。過去の変遷と今後の展望を理解することも、長期的な返済計画を立てる上で重要です。

制度の主な変遷

2009年〜2013年(リーマンショック後):

  • 控除率:1%
  • 控除期間:10年
  • 控除対象限度額:5,000万円

2014年〜2021年(消費税増税対応):

  • 控除率:1%
  • 控除期間:10年(消費税10%の場合13年)
  • 控除対象限度額:4,000万円(長期優良住宅等は5,000万円)

2022年以降(見直し後):

  • 控除率:0.7%
  • 控除期間:13年
  • 控除対象限度額:4,500万円(長期優良住宅等は5,500万円)

将来の制度見通し

住宅ローン控除制度は、以下のような要因によって変更される可能性があります。

  1. 経済状況:不況時には控除拡充、好況時には縮小傾向
  2. 金利水準:低金利が続く場合は控除率が引き下げられる可能性
  3. 財政状況:財政悪化時には制度縮小の可能性
  4. 住宅政策:省エネ住宅や長期優良住宅等の推進方針

将来の制度変更を正確に予測することは困難ですが、過去の傾向から、経済対策や消費税率変更などの大きな政策変更に伴って制度が見直される可能性が高いと言えます。

さまざまなケース別の最適戦略

最後に、いくつかのケース別に最適な繰り上げ返済戦略を考えてみましょう。

ケース1:高所得者(課税所得900万円超、税率33%)

最適戦略:

  • 控除期間中の繰り上げ返済は最小限に
  • 控除上限額に達していない場合は、上限に達するまでは繰り上げ返済を控える
  • 控除期間終了後に集中的に繰り上げ返済

理由:

  • 高所得者は所得税率が高く、控除による節税効果が大きい
  • 高所得者は資金的余裕がある可能性が高く、控除期間終了を待つことが可能

ケース2:中所得者(課税所得300万円〜900万円、税率10%〜23%)

最適戦略:

  • 控除期間中でも、年初に繰り上げ返済を行い、控除への影響を最小化
  • 返済負担率が高い場合は、金利負担軽減のために繰り上げ返済を優先
  • 金利と控除率の比較に基づく判断

理由:

  • 中所得者は控除と繰り上げ返済のバランスが重要
  • 家計の安定性を考慮した判断が必要

ケース3:低所得者(課税所得300万円以下、税率5〜10%)

最適戦略:

  • 返済負担率を優先的に考慮
  • 返済負担率が高い場合は、控除よりも繰り上げ返済による月々の負担軽減を優先
  • 返済余力がある場合は、返済額軽減型の繰り上げ返済を検討

理由:

  • 低所得者は所得税率が低く、控除による節税効果が相対的に小さい
  • 家計の安定性や返済負担の軽減が優先事項

ケース4:変動金利選択者

最適戦略:

  • 金利上昇リスクを考慮した判断
  • 低金利時には控除期間中でも繰り上げ返済を検討
  • 金利上昇が予想される場合は、リスクヘッジとしての繰り上げ返済を優先

理由:

  • 変動金利の場合、将来の金利上昇リスクが大きな要素
  • 控除メリットよりも金利リスク対策の方が重要な場合がある

ケース5:定年までの返済完済を目指す場合

最適戦略:

  • 返済期間をベースに逆算した繰り上げ返済計画
  • 控除メリットよりも返済期間短縮を優先
  • ただし、控除期間中は年初の繰り上げ返済を活用して控除影響を最小化

理由:

  • 定年後の返済負担をなくすことが最優先
  • ライフプランに合わせた返済計画が必要

まとめ:住宅ローン控除と繰り上げ返済の最適バランス

住宅ローン控除と繰り上げ返済の関係について、以下のポイントを押さえておきましょう。

  1. 控除期間と金利水準の比較
    • 控除率(0.7%)と住宅ローン金利を比較
    • 金利が控除率より大幅に高い場合は、繰り上げ返済の優先度が上がる
  2. 所得税率の考慮
    • 所得税率が高いほど控除のメリットが大きい
    • 低所得者よりも高所得者の方が控除期間中の繰り上げ返済には慎重になるべき
  3. 時期の工夫
    • 年初の繰り上げ返済で控除への影響を最小化
    • 控除期間終了後の集中的な繰り上げ返済
  4. 返済負担率の優先
    • 返済負担率が高い場合は、控除よりも家計の安定性を優先
    • 返済額軽減型の繰り上げ返済も検討
  5. 長期的な視点での判断
    • 単年度の控除額だけでなく、総返済額や総控除額を考慮
    • ライフプランに合わせた返済計画の立案

住宅ローン控除と繰り上げ返済は、一見すると相反する選択肢のように思えますが、適切なタイミングと方法で組み合わせることで、メリットを最大化することができます。自身の所得状況、ローン条件、ライフプランなどを総合的に考慮し、最適な返済戦略を立てることが重要です。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に応じたアドバイスではありません。税制は改正される可能性があるため、最新情報の確認や、具体的な税務相談については、税理士など専門家にご相談ください。


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【執筆:JLsim編集部】

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