昔、昭和の頃などは金利が非常に高かったため、住宅ローンはとにかく繰り上げ返済していくことがみんなの目標でした。かつての郵便貯金などは半年複利のため、ほんの8年くらいで元本から2倍に増える時代もありました。つまり借りるときの金利も高いわけで、そりゃ繰り上げ返済による利息圧縮効果はすごいことになります。
現在はどうでしょう。
最近は少しずつ金利が上昇傾向ですが、それでもまだ歴史的低金利の範疇です。たとえばフラット35の金利を今調べると、35年借りてもわずか年1.760%です。住宅ローン控除(減税)の控除率は2022年の改正前は1%、現在は0.7%と改悪されています。しかし、それでも減税があるとないとでは大違い。
ここで問題になってくるのが、「繰上げ返済せずにローン控除減税を目いっぱい受けたほうが得なのか」それとも「繰上げ返済して利息を減らしたほうが得なのか」という点です。JLsim 住宅ローン&資産運用シミュレータを使って、複数のパターンでシミュレーションしてみましょう。
具体的な数字で試算
条件1:借入4000万、利率1.760%(フラット35Sの金利Aプランで当初10年間はマイナス0.25%)、控除率1%、控除年数13年、投資運用なし、繰上げ返済なし
利息合計 ¥12,611,306 という数字を見ると「ううっ」となりますが、ローン控除総計が ¥4,479,100 もあります。利息から控除額を引くと、正味利息は ¥8,132,206 となります。
さて次に繰上げ返済をしたらどうなるのか?を見ていきます。さっきと同じ条件でローンを借りた場合に、早め早めに繰上げ返済をやった場合を試算します。繰上げ返済は、やるなら早いほうがより利息削減効果が大きくなります。
条件2:借入4000万、利率1.760%(フラット35Sの金利Aプランで当初10年間はマイナス0.25%)、控除率1%、控除年数13年、投資運用なし、毎年年末に50万円繰上げ返済を当初10年間続ける
なんということでしょう!
条件1と比べると、利息合計は ¥9,668,606と、約300万円も減りました。繰上げ返済によって借りているローン残高が減っていくため、それに伴ってローン控除額も減り、ローン控除総計は約40万円減ってしまい ¥4,081,300。しかし利息削減のほうが大きいので、正味利息は ¥5,587,306。条件1と比べると、差し引き約255万円も得します。返済にかかる年月も35年だったのが29年10カ月に短縮されます。
条件3:借入4000万、利率1.760%(フラット35Sの金利Aプランで当初10年間はマイナス0.25%)、控除率1%、控除年数13年、投資運用なし、毎年年末に100万円繰上げ返済を当初10年間続ける
今度はもうちょっと繰上げ返済を頑張って、毎年100万円ずつ繰上げ返済するパターンです。
条件2と比べてさらに利息が圧縮され、正味利息は ¥3,713,256。返済完了まで 25年と、なんと35年ローンが10年も短縮されました。繰上げ返済を一切しない条件1と比べるとトータルの正味利息が440万円も削減されています。とても大きいですね。
繰上げ返済は絶対にお得なのか
これまでのシミュレーション結果を見ると万々歳で、繰上げ返済できるならどんどんやるべき!…と言いたいところです。しかし、これはあくまでも自分がローン返済を終えるまで健康に生きていて収入もそれなりにあり続けるのならば、という前提が必要。もっと言えば、ローン返済後もさらに長生きする可能性が高い場合は、繰上げ返済はかなりお得となります。
つまり住宅購入時点で20代~30代前半など比較的若い人は、繰上返済によって得られるメリットのほうが大きい可能性が高まります。
では、繰上げ返済が必ずしもお得にはならないパターンを考えてみましょう。
ローンを借りた年齢が高め≒返済途中または完済後すぐに死ぬ可能性が高い
これは身も蓋もない話ですが、「ローン借入時の年齢が高め、かつ、早めに死ぬ可能性が高そうな人は、繰上げ返済は一切せずに、死んだほうが得」となってしまいます。もちろん団信に加入していることが絶対条件ですが、死ねばその時点でローン残債はチャラになるわけです。もしそうなった場合、それまでに繰上げ返済した分は結果的にただの無駄金だったということになります。つまり、繰上返済せずにその分を貯めておけば、ローンを全額チャラに出来る上に貯めておいたお金を遺族に残せるので一石二鳥というわけです。
しかし、これが難しいのは、人はいつ死ぬか分からないという点です。明日死ぬかもしれないし、10年後かもしれないし、50年後かもしれないし。分からない。予測できない。だから可能性や確率で見積もりを出していくしかありません。そうなると、たとえば40代で35年ローンを組んだ人は、仮に繰上げ返済しなかった場合はローン完済が70代~80代となります。この35年の間に死ぬ確率がどれだけあるか、さらに完済後にあと何年くらい生きそうなのか、を考慮しなければなりません。
令和3年簡易生命表の概況|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/index.html
上記の厚生労働省による簡易生命表を見ますと、ある年齢における平均余命や死亡率などが分かります。これを見て自分の状況と照らし合わせて考えてみましょう。
繰り上げ返済した場合の悲劇例
「45歳で団信付きローンを借りたけど今は長寿命の時代。老後に備えて現役のうちに毎年バンバン繰上げ返済して、貯蓄を全て繰上げ返済に充てて利息を大きく減らそう」と考えていたら、ローン返済10年目に病気でポックリ亡くなった。
こうなると、それまでに繰上げ返済した分は全て無駄になり、遺族には何も残りません。ローン残高もチャラになりますが、繰上げ返済に費やしたお金や努力も結果的に全て無駄になってしまうわけです。
繰り上げ返済しなかった場合の悲劇例
「45歳で団信付きローンを借りたし、早めに死ぬ可能性があるから、繰上げ返済はしないでおこう」と考えていたら、結局35年間、死ななかった。完済して80歳になったが、まだまだ元気であと10年くらいは生きそうだ。
こういうパターンだと、「ああ、さっさと繰り上げ返済して利息を減らし、その分を貯蓄に回しておけばローン完済後の生活が少しは楽になったはずなのに…」となりかねません。
結局、最適解は未来になってみないと分からない
このように、未来がどうなるかは誰にも分かりません。したがって、お得となる最適なローン返済計画を組むことは原理的に不可能。「たぶんこうなるだろうから、そっちに賭ける」という一種のギャンブルになるしかないのです。
返済計画の全貌を作るために考慮すべき変数は「インフレ・デフレ」「世界情勢」「自分の収入」「自分の健康」「家族の状況(健康や進学や結婚など)」などなどたくさんあり、当シミュレータで試算できるのはあくまでも既に明らかになっている一部の変数についてです。
今回の記事では固定金利のフラット35の場合を想定してシミュレートしましたが、これが変動金利ですとさらに不確実性が上がってしまい、そもそもシミュレートしようがなくなります。金利という最も重要な変数がまったく予測できないので、正確なシミュレーションが出来ないのです。
現在のような異常な低金利が、今後もさらに20年・30年と続いていく可能性はかなり低いでしょう。いや、それどころか1~2年以内に急激に金利が暴騰する可能性だってありえます。日本の異常な低金利(というかマイナス金利)はもうこれ以上は下がりようがありませんので、金利上昇方向にバイアスがかかっていると言えます。繰り返しになりますが、未来は誰にも予測できないのです。
さらに余裕資金の扱いについて「繰り上げ返済するか貯蓄するか」だけでなく「繰り上げ返済するか投資に回すか」という選択肢もあります。投資の運用成績も予測できないため、あくまでも過去の統計から見た推測の見積もりになりますが、ただ貯蓄に回すよりもインフレに強くなるという側面があります。
次回の記事では投資運用した場合のパターンでも試算してみたいと思います。
(執筆:JLsim編集部)
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