インフレ状況下で住宅取得をする際に考えておくべきこと

住宅ローン返済考察

【寄稿者:税理士 佐藤憲亮さん】

 2022年に入り、物やサービスの料金が相次いで上昇、円安の急激な続伸、FRB(アメリカの中央銀行)の利上げ、住宅ローン控除制度の改正による控除率の減少等、多くの経済変動が絡み合い、日々家計への負担は大きくなってきています。このような先行き不透明な中、今後住宅を取得して住宅ローンを組むことを不安に考えている方は多いでしょう。そのため、本記事では現在の経済状況の中で住宅取得をするときに知っておくべきこと、考えておくべきことを解説していきますので、是非参考にしていただければと思います。

1.住宅ローンと世界情勢

 日本の住宅ローン金利は日本の状況だけで決まるものではなく、世界情勢や諸外国の金利状況により変動するものであり、住宅ローン金利の変動理由を分析するためには、日本と諸外国の状況やその関係性を知っておく必要があります。

①インフレと住宅ローン

 物価が上昇することをインフレーションと言い、一般的にはこれを省略してインフレと言います。インフレになると、今まで1万円で買えたものが2万円になるといった様なことが起こり、物価が上昇するとインフレ前と後とでは同じ金額で同じ物が買えなくなってしまいます。これは、現金の価値が下がってしまうとも言えるでしょう。

 インフレになると現金の価値が下がってしまうため、現金を金や銀などの現物資産、株式、不動産等に変える動きが活発になってきます。なお、不動産取得時にローンを組み、その後にインフレ傾向が強まれば現金の価値が下がるので、借入金の価値も実質的には下がったと考えることができます。例えば、物価が今までの2倍となった場合、何もせずに持っていた現金1,000万円は、½の500万円の価値となりますが、同じように借入金1,000万円の価値も½の500万円となると言えます。

 現金はすぐに物と交換することができるため使い勝手はいいですが、その価値は経済状況により変動しますので、資産の一部を不動産等に変えてリスクヘッジしておくことも重要です。

②円安と住宅ローン

 円安とは、円の他通貨に対する価値が相対的に低い状態のことを指し、その円安が2022年3月以降、急激に進んできています。円は諸外国の政策の影響を受けやすい通貨で、諸外国が金利引き上げ政策を進める中、日本では金融緩和政策が続行されている状況にあるため、諸外国との金利差が広がっていること、資源価格の上昇による貿易赤字の拡大などが円安の原因である考えられます。

 詳しくは後述しますが、住宅ローンには変動金利と固定金利があり、住宅ローンを組む際にはどちらかを選択する必要があります。変動金利は日銀の政策に影響されやすいため、日銀が金融緩和政策を取り続ける限り、急激な金利上昇の可能性は低いと考えられます。なお、固定金利は日銀の政策以外の影響も受けますので、円安傾向が進むと長期の固定金利は上昇していく傾向にあるということを知っておきましょう。

③米国金利と住宅ローン

 FRBは、2022年3月、5月、6月と相次いで利上げを行ってきました。アメリカは日本と違い、賃金上昇や物価上昇を何度も繰り返してきた国であるため、このような変動は受け入れられやすい傾向にあります。ただ、現在のアメリカはインフレ率(前年比の物価上昇率)が8%を超しており、ここ数十年と比較しても非常に高い水準です。そのため、FRBはこのインフレ状況を落ち着かせるために利上げを何度も行ってました。一般的に金利が引き上げられると、消費者は新たに借り入れをすることに対し消極的になり、市場の通貨供給量が減少するため、全体の経済活動が停滞し、物価が落ち着いてインフレ率は低下します。

 日本は外的要因により利上げを行う傾向が強いため、FRBが定期的に利上げを行っている状況下では、日本も利上げを行う傾向にあり、現に日本の住宅ローン金利は少しづつ上昇してきています。ただ、日銀の金融緩和政策が効いているため急激な利上げには繋がっていません。しかし、その反動として日本とアメリカの金利差が大きく開いてしまい、日本円を売ってドルを買うという動きが加速し、結果として急激な円安が進んでしまっているというのが現状です。

2.変動金利と固定金利

 住宅ローンには、事前に取り決めた期間は金利が変動しない固定金利と、定期的に金利が変動する変動金利の2種類が存在し、住宅ローンを組むときはどちらかを選択する必要があります。

①変動金利のメリット・デメリット

 変動金利は金利が半年ごとに見直され、金利が下がれば利息部分の金額が減少し、逆に金利が上がれば利息部分の金額が増えます。しかし、金利が急激に上がると支払ができなくなる方が急増してしまうため、5年間は返済額は変更されない「5年ルール」というものがあります。

 また、5年後にどれだけ金利が上昇していたとしても、返済額は1.25倍までしか増えないという「125%ルール」というものもあります。ただ、このルールが適用され、元本と利息の合計支払額が急激に増えなかったとしても、金利が上がれば利息の支払いが増え、元本の返済額が少なくなり、最終的に返済できていなかった差額分は最後の返済時に全額返済しなければなりません。

②固定金利のメリット・デメリット

 固定金利は借入時に一定期間、又は全期間の金利を決めてしまう方法です。固定金利は、その期間中の金利が変わらないので、借入時に返済総額を確定することができ、金利上昇時には安心を得ることができます。ただ、外的要因により上昇していく傾向にあるので、上昇傾向にあるときは早めの選択が有利となります。

 現に2022年になってから、固定金利の指標である10年利付国債の利回りは上昇傾向にあり、これを受けて固定金利も上昇してきています。通常は変動金利よりも固定金利のほうが先に変動する傾向にあり、金利上昇時は固定金利の方が早くに上がり、金利下降時も早くに下がります。そのため、長期金利が上がりはじめた後に変動金利が上がりはじめるため、金利上昇がはじまるタイミングでは、固定金利を選択するほうが安心でしょう。

③ライフプランの設計

 将来の金利を予想することはできますが、本当にそうなるかは誰にもわかりません。変動金利は多少のギャンブル要素はありますが、世界的な経済情勢が下降傾向のときは有利となることが多く、逆に世界的な経済情勢が上昇傾向のときは固定金利のほうが有利です。また、どちらの金利を選ぶかは各家庭のライフプランにもよります。

 家計に大きな余裕がある時期に住宅ローン返済が完了するのであれば、金利の低いうちに変動金利で一気に駆け抜けるという選択もありでしょう。逆に予想外の出費が許されない時期に住宅ローン返済をしなければならないのであれば、全期間固定金利の方が計画を立てやすいでしょう。

 なお、変動金利を選択した場合は、常に金利の変動や経済の状況を観察し、場合によっては途中で固定金利に切り替える必要があるため、情報収集をマメに行って分析行動しなければなりません。それぞれの金利のメリット・デメリットを把握し、どちらが良いかご自身のライフプランに当てはめてしっかりと検討するようにしましょう。

3.住宅ローン控除制度

 住宅ローンを組むメリットの一つとして住宅ローン控除制度があり、損をしないためにもその概要は抑えておくことが必要でしょう。

①住宅ローン控除の概要

 住宅ローン控除は、個人が住宅を新築したときや購入したとき、又は増改築等したときに一定の要件を満たした場合において受けることができます。また、住宅ローン控除制度は、2022年に大きな改正がありました。詳細は改正前と改正後の下記比較表を参照ください。

  年別住宅ローン控除税制比較表 
区分改正前改正後
取得年令和3年令和4年、令和5年令和6年、令和7年
控除期間10年間 (特例13年※113年間(中古住宅は10年)13年間(中古住宅は10年)
控除率1.00%0.70%0.70%
適用限度額・認定住宅5,000万円 ・その他4,000万円【新築】 ・一般住宅(下記以外)3,000万円 ・認定住宅5,000万円 ・ZEH水準省エネ住宅 4,500万円 ・省エネ基準適合住宅 4,000万円   【中古(1982年以降建築)】 ・ 一般住宅(下記以外)2,000万円 ・認定住宅 3,000万円【新築】 ・一般住宅(下記以外)2,000万円 ・認定住宅4,500万円 ・ZEH水準省エネ住宅 3,500万円 ・省エネ基準適合住宅 3,000万円   【中古(1982年以降建築)】 一般住宅(下記以外)2,000万円 ・認定住宅 3,000万円
床面積要件50㎡以上40㎡以上※240㎡以上※2
借入期間要件10年以上10年以上10年以上
所得制限3,000万円以下2,000万円以下2,000万円以下

まとめると令和4年の改正により、住宅ローン控除は下記のように変わりました。

・原則控除期間:10年→13年

・住宅ローン控除率:1.0%→0.7%

・適用限度額(一般住宅):4,000万円→3,000万円(令和6年以降は2,000万円)

・中古住宅の要件緩和:※下記に詳細記載

・床面積要件:50㎡以上→40㎡以上

・所得制限:3,000万円以下→2,000万円以下(一定の場合は1,000万円以下)

※中古住宅の適用要件の大幅緩和

改正前の中古住宅については、木造等の非耐火構造は築20年以内、マンション等の耐火構造住宅は築25年以内、それ以外の物件については一定基準を満たす必要がありました。しかし、本改正で1982年(昭和57年)以降に建築された住宅(新耐震基準適合住宅)であれば住宅ローン控除の適用を受けることが可能になり、その適用範囲は広がったと言えます。

②住宅ローン控除の適用要件等

 新築住宅について住宅ローン控除の適用を受けるには、下記要件を満たす必要があります。

(1)減税を受けようとする本人が、住宅の引渡日または工事完了から6ヵ月以内に居住すること(年の途中で取得者が死亡した場合は、その死亡日まで居住していた事実が必要)

(2)特別控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下であること

(3)対象となる住宅の床面積が50平方メートル以上であり、床面積の2分の1以上が自身の居住用であること。(ただし、合計所得金額1,000万円以下の場合で、2023年末までに建築確認を受けた新築住宅の場合は住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満)

(4)対象住宅に係る借入金返済期間なが10年以上であること。

(5)居住した年とその年の前後2年を合わせた計5年間に、居住用財産の譲渡による長期譲渡所得の課税の特例の適用を受けていないこと。

③住宅ローン控除の賢い使い方

 2022年の住宅ローン税制の改正は、控除率が1.0%から0.7%に減り、控除期間が10年から13年に伸びました。これにより、今までの住宅ローン控除制度では全額を控除しきれなかったような方でも、新制度では控除しきれる可能性があり、薄く長く住宅ローン控除を受けれるようになったと言えるでしょう。

 ただし、住宅ローン控除が適用できる上限額も下がっていますので、多くを借り入れしても住宅ローン控除を受けられなくなったため、手元資金と借入額のバランスは考える必要はあります。新築住宅を取得するとどうしても総額は高くなってしまうので、中古住宅も視野に入れて検討しましょう。2022年の住宅ローン税制改正で、中古住宅への適用要件が大幅に緩和されているため、中古住宅で住居費を抑えて住宅ローン控除を限度額まで受けるという選択もあります。 

 いずれにしても、今後インフレが進むと現金の価値が目減りしていってしまうため、不動産を取得して住宅ローン控除を受けるという選択も、一度検討することをおすすめします。

4.まとめ

 本記事では、インフレ、円安、米国の利上げが、日本の住宅市場にもたらす影響を住宅ローン控除税制を絡めて解説してきました。 

 インフレの状況下では現金よりも現物資産、株、不動産などを保有することでリスク分散しておくことが重要であり、その中でも、誰もが取得する可能性のある住宅についての検討は必須です。賃貸か持ち家かの検討もありますが、もし持ち家を選択するのであれば、毎月の返済額や住宅ローン控除をいくら受けられるのか等のシミュレーションを事前にしておくことが必要です。

 住宅を取得するということは、生涯の住居費をある程度固定しておくことになりますので、自身のライフプランに合わせ、余裕をもった予算金額でシミュレーションしておきましょう。「JL sim 住宅ローン&資産運用シミュレーター」は、住宅ローンの複雑な計算が簡単にでき、繰上返済、住宅ローン控除、投資運用まで連動した計算を一括で行うことが可能となっています。住宅取得を検討するなら、まずはこちらでシミュレーションすることからはじめましょう。

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【寄稿者: 佐藤憲亮 プロフィール】

お客様の利益に貢献することをモットーに税理士業界歴15年。
ブログ執筆300記事以上、税法論文「更正の請求の要件該当性と法人税法22条4項の解釈に関する一考察」を執筆。実務も執筆も、難解な税法を分かりやすく説明、書くことを大事にしている。

サイト:http://kensuke-tax.com/


※JLsim編集部注※

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